私には、旦那以外に大切な人がもう一人います。
その人の名前は、桐谷大輔。今年で29になる私より2つ年上の男性です。
彼とは免許を取得するため通っていた自動車学校で知り合いました。

「車の免許も持ってないの、恵里香。今は良いけど年取ったら困るよ~。
電車もいつ廃線になるか分からないし。自由に動けるうちに取っといた方が良いわよ」

友人のひょんな一言から自動車学校に通うことになった私。
「自由に動けるうちに取っといた方が良いわよ」
そう言われ、自動車学校に入校することを決めたものの、その時の私には、
(ドジでおっちょこちょいな私が、果たして免許なんか取れるだろうか…
「何回教えたら分かるんだ!?」って教員に怒鳴られてやめるのがオチだろうなあ…)
そんな沈んだ気持ちしかありませんでした。

「講習上手く進んでますか?お困りのことがありましたら力になりますよ。」

ハンドル操作が上手く出来ず、何度も試験に落ち続けた私。
桐谷先生はそんな私に嫌な顔ひとつせず、つきっきりで私を指導して下さいました。

「僕もとてもおっちょこちょいな性格なので、恵里香さんの気持ちすごく解ります
何度もハンドル握ってたら出来るようになりますから。焦らずじっくりいきましょう」

真摯にそう指導して下さるその姿に、いつの間にか心惹かれていたのでしょう。
気付けば先生の気を引きたいが為、少し大胆な恰好をして教習所に向かっている自分が居ました。新しく綺麗なワンピースを買って、お化粧をして・・・
「恵里香、最近なんかイイコトでもあった?やけに機嫌良さそうだけど」
友人からそう囃し立てられるほど、人が変わったかのように前向きな性格になりました。

自動車学校に通い始めてから半年後―
先生の熱心な指導の甲斐あって、私は無事自動車学校を卒業することが出来ました。
他の人より3ヶ月も遅い卒業でした。
「やっと卒業出来たんだね、恵里香。自動車学校代無駄にならんくって良かったね」
なんて周囲の人々にからかわれながらも、私の心は無事卒業が出来たその充足感で
胸がいっぱいでした。電光掲示板に印字されている私の名前を見て、先生はニッコリ
と嬉しそうに微笑みました。その笑顔に思わず胸がギュッと締め付けられました。

(もう少しだけ先生と一緒にいたい。)

そんな淡い想いがムクムクと胸に湧き上がってきました。
愚かな考えであることは、百も承知です。
しかしその時の私は、どうしても胸に沸き上がったその気持ちを止めることが出来ませんでした。

「先生、このあと時間宜しかったら一緒にお茶しませんか?」

その日の帰り道、私は先生をデートに誘いました。
『免許取得後のことで分からないことがあるから教えて欲しい』とか、
もっともらしい理由をつけて。突然の誘いに戸惑いつつも、
先生は快くその誘いにOKして下さいました。

先生と出会うことが出来て良かった。
心の底からそう思います。先生と出会わなければきっと私は今頃、免許も取れず
将来への不安で途方にくれていたことでしょう。ありがとう、先生。
先生は永遠に私の中の大切なひとです。

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