「俺の住んどる街、桜が満開じゃけ福原も観に来ん?」

―あれは、もう7年も前の話です。
中学時代の親友からそのような内容のメールが届いて、
彼の住む広島県まで、一緒に桜を観に行きました。

「桜を観に行く」といっても、やましい感情など何ひとつなく、
(気の置けない友人に会える。やったあ、楽しみだな。)
そんな軽い気持ちしか、当時の私にはありませんでした。

「“一寸の光陰軽んずべからず”
このことわざの意味知っとるか、福原」

私の知らない、難しい言葉をたくさん知っているひとでした。
彼のバッグの中には、いつも分厚い国語辞典が。
「辞書に載ってる言葉、全て暗記してるらしいぜ、アイツ」
いつか、誰かがそんなことを言っていたのを覚えています。

「お前、また何かやらかしたんか。
ほんまアホじゃのう。ちったあ、器用に生きんさいや」

私が何かに失敗した時、
そう言って彼は、いつも私のことを茶化してくれました。
(台詞だけ聞くと酷いですが、きちんと愛情は籠もっています笑)会社をクビになったり、妹と解り合えず仲違いしてしまったり―
私の人生は、平凡とは大きくかけ離れたものでした。
そんな私の人生の救いになったのは、彼の言葉でした。
「アホじゃのう、お前」「どうしたらそんな失敗できるんね?」
笑ってそう茶化されると、どこか心救われる想いがしたのです。

当時、私には付き合って1年になる彼氏がいました。
眉目秀麗、性格も良くて社交的。
私にはもったいないくらいの素敵なひとでしたが、反面
本当の自分をさらけ出すことができず、いつもどこか
もどかしい想いを抱えていました。

「本当の自分をさらけ出すことができないから、
他の人と浮気をした」
なんて言ったら、ただの言い訳に聞こえるでしょうか。
しかし、今振り返って思えば、自由に、そして対等に意見を言うことのできる、そんな相手を求めていたかのように思います。

「みんさい、満開の桜じゃ。
綺麗じゃのう。こげな綺麗な桜観たの始めてよ、わし」

子供のように無邪気にそうはしゃぐ姿が何だか愛らしくてー
気付けば、そっと彼の手を握っている自分がいました。
「どしたんね、急に」
聞こえてきたのは、いつもよりワントーン低い彼の声。
初めて聞くような、大人っぽい彼の口調に少しだけ動揺
してしまい―その隙をつかれ、不意うちで彼に抱き竦められました。

そしてそこから、彼と私の秘密の交際が始まりました。
年に数回、彼氏には適当な理由をつけて、密かに彼と会うように
なりました。
が、彼が元々病弱だったこともあり、その交際はあまり長くは続きませんでした。
今は一人楽しく、独り身を謳歌しています。
(彼氏は別の人と結婚してしまいました・・・ショックT-T)
何かに縛られることなく、自由に小説を書いたり、
女友達と夜遅くまで飲み歩いたり―
毎日とても楽しいです。
だけど、ふとした瞬間に彼のことを思い出しー
どうしようもなく、もどかしい気持ちになります。
(今頃何をしているのだろう?病が悪化してやいないだろうか?)
なんて。不安に思うのに、連絡を取る勇気がないのは実は
私が、臆病者だからかもしれません。

「ほんまアホじゃのう、お前。
どうしたらそんな失敗できるんね」

彼が笑ってそう茶化してくれたら―
今抱えている苦しみも、悲しみもすべて拭い去ることができるのに。―なんてノスタルジックな気持ちに浸る今日この頃です。
では、切なくとも美しい私の浮気体験記、最後までお読み頂き
どうもありがとうございました。タイトルは、彼がよく車の中で聴いていた、Garnet Crowの「忘れ咲き」という曲から。

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