その女性と出会ったのは、5年前のある冬の日。
その女性の名前は、紫上あかり。
かの紫式部を連想させるような高貴な名前と、不器用だけど
勝ち気な性格に惹かれた。彼女とは、職場を通して知り合った。
年は僕より15コ年下の27歳。「不倫するなんて、馬鹿みたい」
そう嗤われそうだけど、あの時僕はどうしても自分の気持ちを
止めることができなかった。

「ゲッ、お父さんなんで今日家にいんの?
会社の人とゴルフ行くんじゃなかったの?ねえ」

「ちょっと、そこどいてよあなた。
そんなとこにいたらこの部屋掃除できないじゃないの」

僕には二十歳になる愛娘と妻がいたんだけど、
そのどちらもがあまり僕のことを愛してくれなくてね。
僕はこんなに愛してるのにって、ちょっと寂しかった
そんな時、目の前に現れたのがあかりだった。
いつもニコニコと明るい笑顔を浮かべてね。
ああ、新婚当初の妻もこうだったな。
そんなふうに思っていたら、いつの間にか彼女と恋に
落ちていた。

「どうかあまり無理なさいませんように。
これ、手編みのマフラー。良かったら使って下さいな」

去年の誕生日、彼女はそう言って手編みのマフラーを
渡してくれた。その時の僕の喜びようといったら。
妻も娘も、私がその日に誕生日を迎えたことなどすっかり
忘れていた。自分の誕生日を覚えて祝ってくれる、そんな人が
世界中に一人でもいたことが純粋に嬉しかったのかもしれない。

「ありがとう。こんな私のために、わざわざ・・・」

私は42歳、その女性は27歳。
親子ほど年も違うその女性に対し、時々戸惑うこともあった。
私が彼女と付き合うメリットは山ほどあるが、
彼女が私と付き合うメリットはほとんどない。
「どうして私と付き合っているのか」

そう訊ねても、返ってくるのはいつも曖昧な返事ばかりで、
いつしか私は訊ねること自体、やめてしまった。

「奥さんと娘さんを思いやる真剣な
その眼差しに、強く心を打たれました」

一度だけ、彼女が私のその問いに答えたことがある。
全くの不意うちだったから、危うく聞き逃すところだったけれど。
妻や娘を思いやる姿を見て?
変わった理由だなあ、そう思ったけれど、心のどこかで
その言葉を喜んでいる自分がいた。

今も、その女性とは秘かに交際が続いている。
「不倫なんてふしだらな」「妻と娘に申し訳ないと思わないのか」
そんな批判の声を受けることは、承知の上。
僕は彼女のことを愛しています。真剣に。
もし僕が明日死ぬようなことがあったら、全遺産を彼女に投げ売ろうと考えています。そのくらいの熱い気持ちがあります、
ええ、本当に。不倫は、枯れた僕の人生を満ち足りたものにしてくれた。案外、そこまで悪いことじゃないよ、なんてね。
以上、名古屋市内在住・平針和彦(42)の極秘不倫体験記でした。

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