20歳の時、7つ年上の既婚者の男性と不倫していました。
相手は大学受験を控えた高校生に個人指導を行っている塾の先生でした。
出会いのきっかけは、友人の薦めですることになった塾講師のアルバイトです。

「なに、問題が解けない?じゃあ、僕と一緒にやってみようか。」
先生は、勉強が苦手な生徒にも嫌な顔ひとつせず、熱心に勉強を教えていました。
そんな彼の姿にいつしか私は心惹かれていったのでしょう。
気付けば先生のことばかり考えている自分がいました。

(相手には奥さんがいるのよ。こんな感情抱くなんて絶対にだめ。)

そう考え、胸に湧き上がる恋慕の情を必死に打ち消そうとしましたが、
ことはそう簡単にうまくはいきませんでした。

「常勤の江本先生が急病で入院された。
清水くん(私の名前)、悪いが彼の代わりに勤務に入ってくれないかね」

大学受験本番が近づいてきた12月のこと。
塾長の指示で、急病で入院した先生の代わりに、先生と2人、
二人三脚で生徒の指導を請け負うことになりました。

「今日も宜しくね、清水さん」

毎日のように先生と顔を合わせ、会話することが多くなりました。
本番の打ち合わせの為、夕食を共にすることも。
彼の持つ価値観、生徒に対する想い―そういうものに触れるにつれ、
私はますます彼に惹かれてゆきました。

時計が0時を回った深夜の出来事。
徹夜で模試の採点をしていると、不意に後ろから先生の声が聞こえてきました。
「みんながみんな幸せになれるといいんだけど・・・」
そう弱々しく呟く彼の口元は少し震えていました。
普段は明るく前向きな先生がそんなことを言うなんて。
驚くと同時に、(それほどまでに追い込まれていたのだ。)と己の鈍感さを呪いました。

「大丈夫ですか、先生。少し休まれたほうが―」

そう言って彼のもとに駆け寄った時―
これまでにない熱い感情が、メラメラと胸に湧き上がるのを感じました。

抱き締めたい。
気付けば、私は両の手で彼を抱き締めていました。

「わ、私ったら一体なにを・・・」

しかし、先生は呆れた顔ひとつ見せず、微笑みを浮かべて優しく私にこう囁きました・

「ちょっと弱気になってるだけ、大丈夫だよ。
心配してくれてありがとね。」

ああ、良かった。いつもの先生に戻った。
そう安堵したのも束の間。
抵抗出来ないような強い力でぎゅっと身体ごと抱き締められました。

「しばらくこうしてて良いかな。」

身体が痺れ、思考能力が低下していくのを感じました。
(もう少し長く、こうして繋がっていたい)
彼の背中に両の手を這わせ、無機質な地面へと自身の身体を誘いました。
誰も居ない教室の一室で―そこで私たちは、秘かに愛を囁き合いました。

先生の本音と優しさに触れた、あたたかな夜でした。
あの夜の出来事を、私は一生忘れることはないでしょう。
時々鮮明に思い出しては、ひとり星空を眺めている時のような切ない気持ちになります。
『不倫』という2文字で言ってしまえば、それで終わりかもしれないけれど―
胸に刻まれ一生忘れることのない、確かにあれは恋でした。

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